不良債権の発生を防ぐには、日頃からの債権管理と迅速な債権回収が必要です。そこで、できるだけ不良債権が発生しないようにするためのポイントをいくつか列挙したいと思います。
1,初めての取引先に対しては慎重な対応をとる。
2,契約書をできるだけ作成する。
3,弁済期をできるだけ短期間に設定する。
4,同じ取引先に対し、売掛金だけではなく、買掛金も有するような取引関
係をできるだけ構築する(有事の際に、相殺処理して債権回収できるか
ら)。
5,取引継続中も、取引先に関する情報を怠らない。
しかし、それでも取引先の支払いが滞った場合には、不良債権化しないようにするために、迅速かつ反復的な取立てを行うことが必要です。具体的な例を下記に示しておきます。
1,支払期日に支払いがなかった場合、その翌日に電話を入れる。
2,それから1週間以内に支払いがなかった場合、文書で催促状を送る。
3,それでも3週間以内に支払いがなければ、今度は代理人弁護士の名で、内
容証明郵便による督促状を送る。
4,交渉のテーブルにつかせ、合意内容を公正証書化する。
ここでのポイントは、段階的に取り立ての強度を強めていくこと、各取立ての間にあまり期間を置かないことの2点です。相談者の中には、6ヶ月以上も取立てを継続しても支払いがないのでやっと弁護士のところに来て「内容証明郵便で請求してみてください」と依頼してくるケースも数多くあります。しかし、これでは対応が遅すぎます。迅速かつ反復的な請求を心掛けてください。4つ目の公正証書化は、あくまでも取引先が交渉のテーブルにつき、支払いについての合意形成が可能な場合です。公正証書は、判決と同じ効力があるので、万が一取引先が支払いを怠った場合には、訴訟手続きを経なくても強制執行手続きに移行できます。
日頃から慎重な債権管理を心掛け、また、不払いが発生したときに迅速な請求を実践してきたにもかかわらず、一定の割合で不良債権が発生してしまうことは否めません。そのような場合には、迅速に法的措置に移行する必要があります。
法的手続きをとる場合、大きく分けて次の2つのパターンに分けることができます。
1,仮差押え(保全手続)→訴訟手続→判決→強制執行(差押え)
2,訴訟手続→判決→強制執行
まず、取引先に差押えるべき資産がある場合、原則として1によるべきです。事前に仮差押えをしておかないと、せっかく訴訟で勝訴しても、強制執行しようと思った時にはすでに資産が処分されるなどして散逸していることも珍しくないからです。事前に仮差押を行い、取引先の資産を保全しておけば、安心して訴訟手続に移行できます。
また、仮差押は、事前に取引先の資産を押さえるというメリットだけではなく、取引先の任意による支払いを促し、結果的に訴訟をしなくても債権を回収できる場合も少なくないというメリットも併せ持っています。
もっとも、仮差押は、訴訟手続きを経ずに取引先の資産を押さえてしまうので、一定額の担保を提供する必要があることに注意してください。
仮差押の対象は、@不動産、A動産、B債権の3つに大別できます。
まず、@不動産は、一般的に価値が高く、仮差押の対象としては最も魅力があります。しかし、不動産は、他の債権者のために担保に供されている場合も多く、仮差押えを行ってもあまり意味がない場合も少なくありません。
また、A動産の場合は、通常、価値の低いものが多く、保全の手段としてはあまり効果的ではありません。もっとも、取引先に任意の支払いを促すという一定の心理的効果があります。
これに対し、B債権は、大変価値の高いものからほとんど無価値なものまで多種多様です。実務でも、大変よく利用されます。一部の差押禁止債権以外は、対象とすることができます。以下、仮差押でよく対象とされる債権を列挙しておきます。
1,預金債権
大変よく利用されますが、預金者が事業主の場合、通常、金融機関は多額の貸付債権を有しておりますから仮差押をすると、金融機関は自己の貸付債権と預金者の預金払戻請求権とを相殺処理してしまうので、保全手続きの手段としては大きな限界があります。
しかし、取引先としては、預金口座を凍結されると今後の取引に困り、また、金融機関からの信用を失う結果にもありますから、任意の支払いを促すという心理的効果は絶大です。
2,売掛金債権
これは、債務者の取引先に対する売掛金債権を仮差押えようというものです。債務者の重要な取引先が判明すれば価値のある保全手続きとなりえますが、第三債務者となる取引先を把握するのは必ずしも容易ではないこと、売掛金の債権の種類を特定できないと保全できないなどといった限界もあり、必ずしも容易ではありません。
3,賃料債権
これは、債務者に賃料収入がある場合に、その債務者(賃貸人)の第三債務者(賃借人)に対する賃料債権を仮差押えようというものです。賃貸物件を調べれば、賃借人を把握するのは比較的容易であり、その債務者に多額の賃料収入がある場合にはかなり効果的です。
4,給与債権
債務者が給与所得者で、かつ、勤務先が判明している場合に、その債務者の給与を仮差押えることができます。また、対象となるのは、労働者の月額給料だけではなく、賞与や退職金も仮差押えることができるし、取締役の役員報酬も対象となります。
しかしながら、給与等は、労働者の生活の基盤となる収入であることから、その支払期に受けるべき給与の4分の3に相当する部分は差押えできないことになっています(民事執行法1項2号)。さらに、民事執行法施行令で、月額給与については33万円が差押禁止とされています。このように、給与等の仮差押・差押については、差押えできる金額に大きな制約があるため、余程の高額所得者でなければ効果は小さいと言えるでしょう。
もっとも、給与を仮差押え・差押えは、当然ながら勤務先が第三債務者となるので、勤務先に仮差押等の事実が発覚してしまいます。これは労働者にとって不名誉なことですから、弁済を条件に取り下げを懇願してくるケースも珍しくはありません。その意味では、任意の弁済を促すという心理的効果はあるでしょう。
債務者の債権を仮差押えたうえで、本案訴訟を提起して勝訴すれば、今度は正式に差押えることになりますが、問題は、第三債務者が弁済に応じてくれない場合には、その第三債務者を被告として取立訴訟を別途提起しなければなりません。
要するに、債務者の債権に対する差押えは、それ自体終局的な債権回収を保障するものではなく、第三債務者による任意の支払いがなされないと、目的を達成できないということです。紛争に巻き込まれて腹を立てた第三債務者から任意の協力を得られず、取立訴訟に移行するというケースもしばしば見られます。
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